第四章

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「ボーマ先輩。それはつまり、他の騎士団も不正をはたらいているということですか?」「いや、そこまでは言わねぇけどさ」  上手く流すつもりだったボーマが藪で蛇を突く結果となった。  だがボーマの言っていることは半分間違いで半分合っている。騎士団が遠征任務で支給される資金は、人数と日数によって単純に計算されている。しかも支給される資金はそう多くなく、騎士達は宿泊費、食費、不足した備品等の調達にそのお金を使うが、下手をすると足がつく。おまけに騎士団の任務は多様であり、使い道に明確な基準はなく、『任務に必要な場合にのみ使用する』とだけが決められている。  そのような流れから、残った資金を自分の懐に入れるなどの誤魔化しが昔から行われていた。付け加えるならばそういった行為は貴族出身の騎士に多く、わざわざ貴族が運営する施設に泊まったり、自分の領館で泊まり宿泊費を丸ごと横領する噂も絶えることなく耳にする。ただ証拠がない為、騎士団の名誉の為、余程大きな話題にならない限りは放置されてきた。  そう考えると、貴族出身のバイオレットが不正を疑うということに、半分呆れつつも半分嬉しくもあるような複雑な感情がタイサの中で渦を巻く。  とりあえず今は世間知らずな新人に最低限必要なことは教えておこうと、タイサは落ち着きながらゆっくりと口を開いた。 「結論から言うと不正ではない。私はこれは任務上必要な経費だと考えている」 「………どのような理由で、でしょうか?」  バイオレットはそれだけでは諦めずに説明を求めてきた。それに対しタイサは組んだ腕をほどき、両手をやや開くようにして、分かりやすく説明を続ける。 「任務を十分に遂行するには部下の心身に気を配らなければならないと私は考えている。非常食ばかり食べてきた兵が、劣悪な環境で睡眠をとった兵が十分に任務を遂行できるだろうか。私は精神論だけ唱える蒙昧な人間にはなりたくはないし、贅沢な生活を当たり前とするような傲慢な人間にもなりたくはない。だが少なくとも貧しくもなく贅沢でもない範囲で部下を労う必要が団長にはあると感じているが、どうだろうか?」  宿泊する宿は騎士団で決められた施設。酒もなく食事はせいぜい中の上。銭湯も貴族御用達でもなく、誰もが利用している大衆浴場。それで今日の疲れが癒え、明日の気力に繋がるのならば資金の使用には意味はあるとタイサは説いた。
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