第四章

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 翌日。  タイサ達は日の出と共に西門を抜け、先日よりもやや速い速度で馬を走らせる。街を抜けると行商人や旅人の数は随分と減り、速度を上げてもぶつかる心配はなくなっていた。このままの速さで行けば昼頃にはアリアスの街に辿り着くことができるだろう。タイサは頭の上に地図を思い浮かべながら予測する。  到着後、何事もなければ半日で周辺を巡回して1泊。アリアスの駐屯所と情報を交換して早朝から帰路につけば、2、3日以内には王都に戻ることができる。妹への連絡は王都の出発前、ギュードを探すついででギルド兼酒場のマスターに頼んでおいたが、それでも早めに帰るに越したことはない。そう思うと、タイサの馬が僅かに速くなる。  タイサが後ろを振り向くと、馬との間隔を維持したままバイオレットがついて来ている。彼女の表情は相変わらず石のように無表情で、昨日のことを根に持っているのか、それとも気にしていないのかは分からない。  一緒に銭湯に行ったエコーからは、色々と声をかけたが彼女の感情も不満の声も拾うことはできなかったと昨夜のうちに報告を受けている。  次第に木々の数が増え始め、林から森へと表現が変わる道が増えてきた。タイサは頭の中を切り替え、任務のことに意識を向けようと首を小さく左右に振る。  実は先日、タイサは奇妙な情報を冒険者ギルドから1つ得ていた。それはアリアスの街で駐屯していた騎士達がここ数日帰ってきていないという内容だった。  そんな情報は王都では聞いていない。タイサは早朝出発前に駐屯地を訪れ、夜勤明けの担当騎士を叩き起こしたが、彼が眠い目を擦りながら信じがたい言葉をタイサに発している。 ―――その調査にあなた方は来たのではないのですか?  既に知っているという前提で、相手は『特に変化は無い』とあの時答えたのだという。  何故本部にこの情報が伝わっていなかったのか。タイサが出発前にエコーに事情を話すと、やはり彼女もタイサと同じ疑問を口にした。  細かい部分での差異や言葉尻の読み間違いは日常の任務でもなくはない。だがここまで大きな情報が伝わっていなかったことは、10年以上騎士団を続けていたタイサ自身には記憶がない。  十分に気を付ける必要がある。タイサは気を張りながら馬を走らせ、ついに森を抜けた。
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