第四章

12/13
130人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 だがそれでも1,2匹かはこちらに向かって指をさし、足元にあった手ごろな石を掴むと、それを一斉に投げ始めた。  小さな体付きのゴブリンが投げた石は、その大きさも飛ぶ距離もたかが知れている。投げられた石は馬で走り抜けたタイサ達に追いつくわけもなく、むなしく放物線を描きながら地面に落ちていく。  そしてタイサ達が西門の前を通り過ぎて馬を旋回させると、打つ手がなくなったのか石を投げたゴブリンが真っ先に逃げ出し、それに続いて他の数匹のゴブリン達も後を追うように西の森へと逃げていった。 「隊長、ゴブリンが逃げ出していきます」  ゴブリン達の動きを報告したエコーの声に合わせて、タイサはランスを持った手を軽く上げながら馬の速度を緩め、全員に停止を命じた。 「よし、それでいい。深追いはするな」  タイサは盾を大きく下に振って、足元の草を蛮族の血で染める。 「隊長、追撃をしましょう!」  エコーやボーマらが持っていたランスを背中に戻している中、一人剣を持ったままのバイオレットがタイサの馬に近付いてきた。そして彼女はゴブリン達を追撃し、全滅させるべきだと訴えた。  だがタイサはそれを受け入れることはしなかった。 「却下だ。敵の規模が不明な以上、無理な行動は避けるべきだ」 「しかし相手はただの蛮族です! ゴブリン程度、今からでも馬で追いかければ簡単に追いついて蹴散らせることができます」  バイオレットは結局先の突撃でも1匹も倒すことができていなかった。その焦りか、それとも初陣の興奮か、はたまたその両方か。新入りの騎士という自分の立場を忘れたかのようにタイサに食い下がる。  仕方がない、とタイサは兜を脱ぐと汗にまみれた頭を掻いて、大きく息を吸った。 「バイオレット三等騎士! いい加減にしろ、ここは私の命令に従いたまえ!」  あまり気が進まないがタイサはもう一度彼女を怒鳴ることにした。相手に理解できるよう説明しながら諭すのがタイサ本来のやり方だったが、感情的になっている人間にはそれが通じない。相手の意見を例外なく切り捨てるかのようなタイサの言葉に、さすがのバイオレットも黙ったが、タイサ自身もまた新人相手に怒鳴ってしまったという自己嫌悪が沸き出し、人には見られまいとバイオレットに顔を背けながら、湧き上がる感情を無理矢理飲み込んだ。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!