第五章

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 最悪、街を捨てることも考えなければならない。町長には街にいる老人や子ども、怪我人達を優先的に街から脱出させるタイサの提案を受け入れてもらっている。そして隣町に到着次第、タイサの名前が入った街の状況報告と援軍の要請について記した文書を、駐屯している騎士団に渡すことになっていた。  住民達の話では、ゴブリン達がこの街を襲い始めたのは騎士団がいなくなった日から3日後、タイサ達が到着する2日前に当たる。ゴブリンの数がそれほど多くないことが幸いし、住民達と地元ギルドの冒険者が障害物を置くなど可能な限り抵抗してきたことで、死者や建物への大きな被害はまだない。  だがこのままずっと戦い続ける訳にもいかない。タイサは熱さが和らいできたコーヒーを慎重に口元に運んだ。喉を過ぎていく熱さと空になった胃袋を侵食していく感覚が、疲れた脳を覚ましてくれる。 「………ゴブリンが100匹単位で来られると、さすがに厳しいな」 「100匹って、ゴブリンがですか? そんな数聞いたことがありませんよ」  タイサの独り言に、持っていたコーヒーのカップを揺らしながらルーキーが声を上げた。 「いや、隊長の数字は十分にあり得る………ってエコー、このコーヒー熱すぎないか?」  ボーマが真面目な顔をしながらカップに口をつけると、タイサと同じようにカップと顔の距離を離す。  住民達の報告では、ゴブリン達は毎回50匹近い数で攻めて来ているとのこと。初めの頃は数匹を倒すと逃げるように退散していったが、次第に仲間の死に怯えることがなくなったのか、今では半数程度を失うとゴブリン達は示し合わせたかのように森の中へ逃げていくのだという。  この2日間で襲ってきた回数は先程の襲撃を合わせて4回。ゴブリンの数は常に50匹程度だった。  そう考えると、ゴブリン達は襲撃の度に仲間を補充していることになり、その総数は補充された数を入れるだけで100を超える。タイサとボーマは同じ考えに至り、ルーキーにあり得る話だと説明した。  さらにタイサは周囲には話していないが、他にも不安に感じていることがあった。  ゴブリンの行動である。  ゴブリン達が常に一定数で街を襲い、ある程度の数を失ったら撤退し、失った数を補充して再度襲撃を行っている。これを組織的な行動と考えるのは早計だろうか。タイサの脳裏に、数日前に王女と宰相らと問答した内容がよぎる。
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