第五章

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「………おはようございます」  バイオレットが視線を合わせようとしつつもそれがなかなかできず、気まずそうな顔をしながら詰所の寝室から出てきた。おはようと言っても、時間は夜がこれから深みを増していく時間帯である。  彼女は初陣による疲労が随分と見えていたことから、タイサの指示で先に休息を取らせていた。  タイサはエコーに彼女の分のコーヒーを頼むと、何事もなかったように眉を大きく上げて声をかける。 「おはようバイオレット。少しは落ち着いたか?」 「はい。その………色々とご迷惑をおかけしました」  貴族でありながら貧しく、さらにどんな経緯かは分からずに底辺と呼ばれるこの騎士団に配属されたことにバイオレットはどう感じているのだろうか。やはり必死になるものだろうかとタイサは考えたが、今ここで聞いても仕方がないと、心の中で適当に消化させる。そして肩をすくめながら、気にするなとバイオレットに短く声をかけた。 「必死にやろうとして、思わず感情的になることなんて新米騎士には良くあることだ。なぁ、ボーマ?」 「そこで俺ですかい? まぁ………そうですねぇ。俺なんか初めての時なんかは興奮が冷めきらずに、昔いた騎士団の女性に………」「よし、それ以上は喋るな。皆のコーヒーがまずくなる」  二重になった顎を弄りながら自慢げに話し始めたボーマの武勇伝を、タイサが聞く相手を間違えたと数秒で閉じさせる。ボーマは残念そうに口を開けていると、それを見たルーキーが笑い、バイオレットは僅かに眉をひそめた。 「はいはい、馬鹿は放っておいて。バイオレット、とりあえずこれで目を覚ましなさい」 「ありがとうございます、副長」  コーヒーを持ってきたエコーに感謝しつつ、バイオレットは最初の一口を喉に通すと、驚くようにカップを唇から離す。 「よし、遅くなったが明日の打ち合わせをしよう」  タイサは手を二度叩き、全員に気持ちを切り替えるように促す。そして椅子から体を離すと詰所の壁にかかっていた街の地図の前に立ち、全員を近くの椅子に座らせた。 「我々の置かれた状況は、かなり危機的と言える」  タイサは町長から聞いた情報と合わせて、街の騎士団の不在とゴブリンの襲撃について今一度確認を行った。  その上でゴブリンの総数が100以上と想定しつつ、住民の避難計画と防衛計画を同時に進めていくことをエコー達に伝える。
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