第二章

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第二章

「と、いう訳で。今日も1日ご苦労様っした!」 「「「「乾杯!!」」」」  ボーマの音頭で全員がビールを喉に落とす。互いにぶつけ合った樽の形をかたどった木製のジョッキが次々と空になり、飲み終えた順の顔に白い髭を生やしていく。  王都の中心、王城の根元にある騎士団本部に着いたタイサは、口頭で報告を終え、さらに詰所の団長室に戻り報告書の作成と提出を済ませた頃にはすっかり日が落ちていた。  一方のジャック達は、遠征用の荷物を倉庫に返還し、全員でルーキーに武器防具の手入れの仕方を教えながら、律儀にもタイサの仕事が終わるまで騎士団の詰所で待ち続けた。  こうして、やや遅くなったがジャックの昇進と送別会、ルーキーの初陣祝いを兼ねた飲み会が開催されたのである。  老舗の名店『アルトの森と湖』。1階に酒場、2階と3階に宿を構え、王都でも東西南北を交差する大通りに面した超一等地にある奥ゆかしき木造の酒場兼宿屋。店の名前の『アルト』というのは、この店を立ち上げた初代店長の奥さんの名前らしく、数百年たった今でも使われている。一等地にありながら旅人に良心的な値段と、地元住民に評判のある味を両立させており、昼も夜も常に席が埋まっている。  また、ここは冒険者ギルドの窓口も兼ねている為、ここには地元住民や行商人だけでなく、一攫千金や名声を夢見る冒険者まで様々な人種が集まり、嘘も誠も情報を飛び交わせながら一夜の楽しみをここで共有している。 「はい、お待ちどうさま!」  金色の髪を左右にまとめたツインテールのウェイトレス、滅多に姿を見せない酒場の看板娘が今日は珍しく出勤していた。彼女は4枚の皿を器用に左右に2枚ずつ運び、タイサ達の前のテーブルに慣れた手つきで並べていく。猪のカットステーキ、半熟卵の入った野菜サラダ、焼き鳥の盛り合わせ、蒸した芋の塩とバター和え。力仕事後の選択としては申し分ない組み合わせだった。 「まだまだ頼んでありますから、どんどん食べてくださいよ!」 「さすがだボーマ。飲み会のメニュー選びでは騎士団随一だな」  タイサは手前にあった焼き鳥の串を一気に頬張り、串をボーマに向けてにやりと笑う。そしていつ誰が頼んだのか分からないが、タイサが飲み干した頃を見計らって2杯目のビールが即座に届けられた。
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