第五章

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第五章

「隊長、コーヒーです。熱いので気を付けてください」 「ああ、ありがとう」  騎士団の駐屯所の中で考え事をしていたタイサは、エコーが持ってきたコーヒーを何も考えずに口に付け、反射的に唇を引いた。そしてエコーの言葉を今更思い出し、自分がそれなりに余裕がなくなってきていることをそこで初めて自覚する。  タイサはコーヒーの入ったコップを静かにテーブルの上に置くと、そのまま椅子に腰かけて火傷した上唇を軽く指でなぞり、大きく溜息をついた。 「さて、どうしたものか」  タイサはアリアスの町長から話を聞き、事態は想像していた以上に悪いものだったと認識した。  まずグーリンスの街で聞いていた通り、この街で駐屯していた騎士団が5日ほど前から帰ってきていないことが事実であることが確認できた。彼らは西の森で木材を採りに行った住民からの目撃情報でゴブリン達を討伐しに行ったのだが、いくら経っても帰って来ず、町長が使いを出してグーリンスまで報告に出したというのが一連の動きである。  そのこともあり、町長はゴブリン達を撃退したタイサ達を新しく駐屯してきた騎士団か、討伐隊だと思って両手を上げて喜んでいた。  タイサは彼らの表情に押され、それが誤解であるとは未だ言えず仕舞いになっている。 「隊長、今戻りました」  そこにボーマとルーキーが扉を開けて入ってきた。 「ご苦労様。首尾はどうだ?」 「はい。とりあえず住民達と協力して西門のバリケードの修復を行った後、新たに南門と北門もバリケードで固めてきました」とルーキー。 「ですが、街の周囲の壁はだいぶ古いままで、それほど頑丈ではありませんな。小柄な奴らでも肩車なり道具を使ってくれば壁を越えて入ってくるかもしれません」  かと言って手持ちの資材ではどうすることもできないとボーマが話を引き継ぐ。 「副長、住民の避難準備はどうなっている?」  戻って来た2人の為にコーヒーを持ってきたエコーに、タイサがちょうど良いタイミングで尋ねる。 「はい。既に老人や子ども、怪我人達は大通りを上がった所にある学校に避難させています。現在、動ける者達で避難準備が進められ、街にある荷馬車を総動員して積めるだけの物を積み込んでいるところです。遅くても本日中には完了すると思います」
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