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そうこうする内に、現場に着きました。林の中に入りましたが、案の定…というか、
ほぼ予想通り何も聞こえません。
まぁ、噂話なんて、だいたいこんなもん。夏の夜の暇つぶし。良い話のネタが出来たな?
なんて、皆で笑いあっていました。
そんな時に、俺の耳に蚊の鳴くような小さな声で、
「…むおーん…」
って聞こえたんです。
(その時を思い出したのか、男の声が一瞬止まり、衣類の上から体を掻きむしるような音が
聞こえてくる。何とか震えを抑えようとしている様子だ。)
最初はよくわかりませんでした。えっ?空耳?何、今の?なんて思いました。
よくよく見れば、周りの先輩方も同じような面して、顔を見合わせています。
俺、思わず聞きました。
「今、何か聞こえましたよね?」
頷く二人の先輩に、何だかシーンとなっちゃってですね。
気味が悪くなったんですよ。その日はそれで解散となりました。
でも、すぐにわかりました。
俺達は“ナニか”連れ帰ったんです…
次の日の事です。都内に出る用事があったので、駅のホームに立っていました。
電車が到着し、ドアが開き、降りてくる人を待って、横に退いた俺の耳に…
「…むおーん…」
林で聞いた声と同じモノが聞こえました。思わず“ウオッ”って後ずさりましたよ。
周りにいた人の訝し気な視線に、どうやら自分だけが聞こえる音と理解しました。
また、その次の日、仕事が終わり、自宅でくつろいでいると、
「…むおーん…」
翌日は仕事先で
「…むおーん…」
あの蚊の鳴くような声が、毎日1回は聞こえるんです。1日1回の声ですから、
その内、慣れるのでは?なんて思いますよね?
無理でした。1日に1回と言っても、そのタイミングはバラバラです。仕事中に
聞こえる事もある。家に帰ってくつろいでる時、恋人と会っている時…
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