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第一話「遠くへ行きたいって思っていたんだ」
大慌てで会社を出て、目的の駅までたどりついたのは午後七時過ぎだった。
メールを受け取ったのは午後四時。
三時間ほど待たせてしまったけれど、あの子は大丈夫だろうかと、この辺りで一番大きな駅の構内をキョロキョロと探す。けれど、人が多すぎてすぐには見つからない。そういえば、今どんな姿をしているのかもわからないのだ。離れて暮らすようになってから、あの子とはメールと電話でのやりとりしかしていない。
最後に会ってから、五年経つ。
少年にとっての五年なんて、きっととんでもなく長い時間だ。せめて、どんな服装かだけでもメールで聞いておくべきだったと後悔しかけたとき、後ろからポンと肩を叩かれた。
振り返ると、むに、と頬に何か当たる感覚。そして聞こえてくるクスクスと笑う声に反対側に顔を向けると、見知らぬ男の人が立っていた。
「姉さん、そんなんじゃまるで姉さんが迷子みたいだ」
「……裕樹(ひろき)?」
目の前の男の人は、こくんと頷いて、そして目を細めて笑った。
ーーああ、元から細い目がなくなっちゃう。
そう思って、まじまじと見つめると、確かに目の前の男の人には、私が知っているあの子の面影があった。
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