第二話「しばらく家においてよ」

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     ***  寝室とキッチンに続く部屋を仕切る戸を引くと、裕樹は昨夜布団に入ったときと同じ格好でまだ眠っていた。相変わらずお行儀の良い寝姿。ひとたび眠ると拳法の達人が乗り移ったかのようになる私とは大違いだ。今朝も得意の足技で盛大にタオルケットを仕留めたあとがあった。 「おはよう。……あれ、もしかしてもう昼だったりする?」  そっと横を通り過ぎたつもりだったのに、気配で起きたらしい。目をこすりながら裕樹は、むにゃむにゃと私を見る。 「ううん。まだ六時だから、朝ごはんまで寝てていいよ」 「休みなのに、規則正しく起きるんだね。さすが社会人」 「残念。私は今日も明日も仕事だよ。だからこの時間に起きてるの」 「え?? 土日休みじゃないんだ?」  裕樹は眠たげな糸目をバチっと見開いて驚いた。その驚きようを見て、私はこの子の行動が腑に落ちる。  なるほど、この子は今日私が休みだと思って昨日突然訪ねてきたのか。大学生にとっては、土日は休みだという感覚が染み付いていても仕方ない。 「私は水曜日が休みだよ。同業はみんな水曜日が休みなの。『契約が水に流れないように』っていう縁起担ぎみたいなものらしいけど」 「日本人って、そういうダジャレみたいなの好きだよね」  頭をかきながらつまらなそうに言って、裕樹はまた横になった。だから私は朝食の準備にとりかかった。  そうは言っても、大したものは作らない。溶き卵とミニトマトを入れたコンソメスープを作って、食パンを焼いて、オレンジを切って、インスタントコーヒーを淹れるだけだ。ただ、朝の目覚めきっていない体でそれらの作業を手早くやろうとすると怪我をするかもしれないから、慎重に三十分ほどかけて行う。  
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