第一話「遠くへ行きたいって思っていたんだ」

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   ***  何か食べに行こうかと尋ねると、「姉さん家で適当に食べさせてよ」なんて言うから帰ることにした。  鉄鍋餃子の美味しい店にでも連れて行くつもりだったのに。熱々の餃子を食べながら冷えたビールでカンパーイ、なんて最高の想像をしていたから、少し気持ちが萎える。まぁ、旅の疲れもあるだろうし、家で食べたいと言ってもらえると安上がりで助かるのだけれど。  まずは地下鉄に十分ほど揺られ、そこからまた十分ほど歩くと、私の住むマンションまでたどりつく。 「意外と便利なところに住んでるんだね」 「うん。職場にも市街地にも近いところが良くって」 「家賃高い?」 「うーん、そうでもないかな。少し古めのところにしたから、そのぶん築浅なところより安いの」 「なるほど」  手入れはされているからボロくはないけれど、さして綺麗とも言えない築十三年のマンションを二人で見上げた。こうして見ると、アクセスの良さ以外褒めるところのない物件だ。     
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