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「ねぇ、今晩、なに食べようか?」
歩きながら裕樹を見上げて尋ねると、ちょっと意味深な笑顔を向けられた。
何というか、ちょっといやらしい。絶対に良からぬことを考えている。
「ねぇ、何でそんな顔で笑うの」
「そんな顔って、どんな顔?」
「……いやらしい顔」
「まぁ、いやらしいこと考えてたし」
「何でよ! ご飯の話してたんだよ!」
「ごめんごめん。……俺、デザートのこと考えてたわ」
「……」
戸惑う私を見て、裕樹はいやらしい笑みをより一層深くする。いやらしいというより、色気がダダ漏れの笑顔だ。私より三歳も年下のはずなのに、時々妙に色っぽい。
関係が変わってから、裕樹にはこうして翻弄されっぱなしだ。
姉として接していたときは気がつかなかったけれど、この子は思いきり肉食系だ。見た目は草食系っぽいから、いわゆるロールキャベツ男子というやつか。
「……ロールキャベツ、食べる?」
キャベツの旬ではないけれど、久しぶりに食べたくなってしまって思わず尋ねていた。
柔らかなキャベツの中からジュワッと肉汁とスープがほとばしるのを思い浮かべて、胸がときめく。手間がかかっても、あれを作って食べたくてたまらなくなってきた。
それなのに、裕樹はふるふると首を横に振った。
「却下。時間がかかりすぎる。今夜はぶっちゃけ、コンビニおにぎりとかでもいいよ。……俺が食べたいものは別にあるわけだし」
「も、もう! そういうこと言うの禁止! わかったから。何か買って帰ろう」
「うん」
恥ずかしくなって、私は裕樹を置いて先を歩き始めた。
これでは先が思いやられる。
姉としての威厳は、年上としての矜恃は、このままではあっという間に押し流されてどこかにいってしまいそうだ。
……それでもいいと、ちょっと思ってしまっているけれど。
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