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私が野菜を切り始めた横で、裕樹は計った米を研ぎ始める。一緒に暮らしていた頃も、よくこうして並んで夕飯の支度をしたのを思い出す。母も家にいるときは、私たちに料理を教えてくれた。男の子だからと言わずに、母は裕樹に熱心に台所のことを教えた。その甲斐あって、中学生になる頃には裕樹はあらかた何でもできる子に育っていた。
「そういえば、お母さん元気? って、お母さんとか言うの、変なんだけどさ」
「そんなこと言ったって、石井さんなんて呼ぶわけにいかないでしょ。うん、お母さんは相変わらず元気だよ。仕事もバリバリ、恋もバリバリ」
「あははー。そっか、相変わらずか」
手早く米を研いで炊飯器にセットした裕樹は、隣で私が調理する様子を見ていた。野菜は切ったら、タッパーに入れて電子レンジで一分加熱。そのあと、油で炒めて、解凍した竜田揚げを入れて、しょうゆとみりんとケチャップで味付けして、味を見て少し酢と鶏ガラスープの顆粒を入れて、水溶き片栗粉でとろみをつけたら出来上がり。
「俺、炊きたてご飯食べるのかなり久しぶり。食べるにしても、レンジであっためるご飯だから」
「炊飯器ないの? 買いなよ。それか、電子レンジで米炊けるタッパーみたいなのあるでしょ? あれ買いな」
「何で? 米は日本人の心、みたいな?」
「まぁ、そんなところ。とにかく、最低限米は炊いて食べなさい。衣食住の食が崩れると、何もかもダメになるってよ」
「何それ。……わかった。何かそんな予言めいたこと言われると怖くなるもん」
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