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米が炊きあがるのを、私と裕樹は炊飯器を見つめながら待った。急速炊きモードにしたのに、おかずのほうが先に出来上がってしまった。デジタルの表示はあと九分と出ている。
フライパンを洗ってお味噌汁を作るくらいの時間はありそうだ。
「まだ炊けないから、座ってていいよ」
「うん。……てか、テーブルちっさいね」
「一人暮らしだからね」
「でも、食器は……揃ってるね」
ノートパソコンを乗せるとほかに何も置けなくなるくらいのテーブルの前にちょこんと座ると、裕樹は食器棚代わりのカラーボックスを見ていた。
裕樹の観察眼が鋭いのか、それともパッと見ればわかるものなのか、確かにその食器棚には一人暮らしのものより多い食器がある。しかも、何種類かは対になったものだ。
「彼氏がいたときの名残。たまにうちでご飯食べたりしてたから、それでね、捨てるのももったいないから置いてあるだけで」
「まぁ、今日みたいな急な来客のときは役に立つよね」
「うん……あ、炊けたね」
タイミングよく、炊き上がりを知らせる電子音が鳴る。ちょっと間の抜けたアマリリスのメロディは、何かに夢中になっているときに聞くといつもビクッとしてしまうけれど、今は少しありがたかった。
何が悲しくて、別れた彼氏が使っていた食器の話を弟にしなくてはならんのだ。
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