棲む

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「住み始めて最初に、夜中左隣の部屋の壁をドンドンと叩く音が聴こえた。でも、その次の日に確かめたら隣は空き屋だってことが分かったんだ。そして次は窓ガラスを叩く音。それも、日を追うごとに段々大きくなった。一昨日、遂にバン!という音と共に、窓ガラス全体にヒビが入った。誰かの悪戯かと思ったが、絶対に違う。そして、昨日は風呂に入って、ふと水面をみたら、老婆の顔が俺の足と足の間からぬっと現れて、飛び出るようにして風呂から出たんだ」  先輩の身に起こった怪奇現象を説明されて、俺は思わずカタカタと震える。 「大丈夫か? 凄い汗だぞ」  そんな俺のことをYが気遣う。  と、そんな時、  パリンッ。  破裂音。俺はビックリして耳を塞ぐ。Yが音の聴こえた方向へ向かい、木っ端微塵に割れたグラスコップを持って帰ってきた。 「どうやら台所でコップが割れただけだよ。何で割れたか理由は分からないけど」  Yはそういうと、グラスを元の位置へ戻しに言った。  俺は怖い思いをして心臓がドッドッドと跳ねるように打ち付ける。 「先輩すいません、コイツちょっと怖い話聞き過ぎて体調悪くなったんで、今日はこの辺でお暇しますわー」  今にも泡を吹きそうな俺を抱えて、Yが先輩にニコリと笑いかけた。 「ま、待て、お、俺を一人にするな! お前らも今日は此処に……」 「先輩、今度いい霊媒師紹介するんで、それで許しちゃってください。あー、それとT先輩……」  Yは急に先輩に向けて真顔になる。 「その肩に“棲んでいる”女の人、先輩のこと気に入っているみたいですよ。このまま、ずっと一緒に居たいって」  またニッコリ顔にもどるY。 「それじゃ。二人でお幸せにー」     
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