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大学生の時、私は”怖い話集め”に夢中になっていました。
会う人会う人に「今までで一番怖かった話」を尋ねては楽しんでいました。
30を過ぎた今では当時たくさん聞いたはずの”怖い話”たちの記憶は全くないのですが、
私が4年生になった春に入学してきた、部活の後輩のA子がしてくれた話だけはとても鮮明に覚えています。
A子は当時7歳でした。
群馬県前橋市の某駅徒歩数分の場所にある13階建てのマンションの12階に、両親と歳の離れた弟と4人で住んでいました。
1歳になりたての幼く可愛い盛りの弟は、待望の男の子ということも相まって両親の愛情を一身に受けていました。
どれだけ気を引こうと頑張ってみても、両親が可愛いがり優先するのは弟のことばかり。
それまで一人っ子でとても可愛がられて育ってきたA子は、その状況にとても戸惑いを覚えていました。
子どもの特有の残酷さからくるのか、バッタの足をもぐような、カエルに爆竹を仕掛けるような単純さで、次第に「この子が居るから自分は愛されない。私が愛されないのは弟のせいだ。
だから弟のことを殺して やろう」と考えるようになっていきました。
その頃くらいからでした。家に誰かがいる、と感じるようになったのは。
家の中に”誰か”がいていつも自分を見ている。
シャワーを浴びていても視線を感じる。
電気のついていないキッチンに“誰か”が立っているのがわかる。
廊下で”誰か”とすれ違った気がする。
家族以外の”誰か”がこの家の中にいる、と。
そんなある晩のことでした。
いつもは母、弟、A子、父の順に布団を並べて寝ているのですが、その日父は出張でおらず、母を真ん中にして3人で川の字になりました。いつもより少し広い左側が気になって、A子はなかなか寝付けませんでした。
母と弟の寝息を聴きながら、寝よう、寝ようと焦るほどに眼が冴えていきました。
30分程経った時でしょうか。
天井のしみを見ていた彼女はふと、自分の足元に”誰か”がいるのがわかりました。
ゆっくり視線を足元へ移動させると、窓からの月明かりを受けて、髪の長い女性が立っているのが見えました。
その女性は髪の毛がずぶ濡れで、青い服を着ていました。
そしてこの女性が、いつも家の中で自分をみている人だとA子はその時確信しました。
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