0人が本棚に入れています
本棚に追加
直感的に視線を合わせては駄目だと悟ったA子は急激に恐怖がこみあげてきて、掛け布団を頭まで被り、固く目を閉じて震えていました。
するとじわじわと強い力で足元の方から掛け布団を引っ張られるのを感じました。
A子は必死に握りしめてそれに耐えました。
すると、更に足元の掛け布団の上から力が加わりました。
驚いて声が出そうになるのを必死で抑え、これもまた直感的に動いては駄目だ、と思いました。
その力は徐々に彼女の身体の方へ移動してくるのがわかりました。
ふくらはぎの上、ふとももの上、おなかの上へと。
そして彼女の胸部分まで来た時A子は、次は顔を掴まれる、と全身に強く力を入れました。
それから当然ふっと、引っ張られる力が弱まり、胸に感じていた重みもなくなり、恐ろしさで汗だくになっていたA子は布団の中で静かに目を開け、気配を感じ取ろうと耳を澄ませました。
次の瞬間、A子は足首を捕まれて布団からひきずり出されました。
床を一気に引きずられ、ベランダへ出る窓へぶつかった、と思うとその窓をすり抜けてベランダへ出されました。
恐怖で身体が硬直していると、その女は今度はA子の腕を掴み、ものすごい力で塀の方へ引きずりました。
塀の上におなかが当たって、お母さん!お母さん!叫びたくてもなぜか声は出ず、もうだめだ、落ちる、と思った時、
「ビャーーー!!!」
弟が烈火のごとく泣き出し、その声でA子は目を覚ましました。
「・・・だから吉田さん。これは全部私の見た夢だったのかもしれません。」
大学生になったA子は笑いながら私にそう言いました。
A子が目を覚ました時、同時に弟の泣き声に母が気づきました。
そして弟をあやしながら視線をあげ、そしてA子と目が合いました。
母は驚いて窓の鍵を開けました。
「なんでそんなところで寝てるの!」
A子はベランダにいたそうです。
彼女のこの話を聞いてから私はなんとなく、”怖い話集め”をやめてしまいました。
最初のコメントを投稿しよう!