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01
用意した会議室にスーツ姿の男が入ってきた。若くはない。40歳前後といったところか。
「ソウってのは、おまえか。……意外に若いんだな」
俺の座った席の真向かいに、あいさつもなく座る。
「他人の会議室に入ってきて、相手を見た目で判断するとはね」
俺がそう言ってやると、男は口に何かをくわえる格好をした。見えないものを指で挟んで、ふうっと煙を吐き出す。机に下ろした手には、火のついた煙草。
こいつ、閉ざし屋に慣れてやがる。俺はイメージから灰皿を作り、男の前に出してやった。男はすぐに煙草を灰皿に押しつける。
「いや失礼。だが、会議室では大抵、宿主の姿は素に近いものだろう?」
虫唾が走る。こういう、勝手知ったるふうの依頼人が一番、厄介な仕事を持ってくるもんだ。
「御託はいい。依頼内容を言え」
「ある人物の持つ特定の情報に、鍵を掛けてもらいたい」
ほらきた。やっぱり一番厄介だ。
「情報は潰してもかまわん。条件は、ターゲットの身体機能、言語機能、思考能力を損なわないこと。それから、鍵を掛ける情報にアクセスしないことだ」
メモを取りながら、俺は露骨に舌打ちを聞かせてやった。業界トップクラスの難易度だ。
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