01

3/4
前へ
/10ページ
次へ
 まだ薄暗い明け方の自室で、俺は目を覚ました。『閉ざし屋』あるいは『戸立て屋』と呼ばれる俺たちは、夢の中でしか依頼を受けない。 「他人の口に戸は立てられない」なんてことを言うが、立てられないはずの戸を立てるのが俺たちの仕事だ。仕事をするのは夜、夢の中だけ。日中は何食わぬ顔をして生活していればいい。ターゲットについての情報と、夢へのアクセスポイントは、今晩の夢で知ることができるだろう。  夢にもぐりこむこと自体は、実は特殊能力でもなんでもない。ちょっとした忍耐力で、軽く血を吐く程度の訓練を終えれば、70%以上の人間が夢へのアクセス権を手に入れることができる。命を落としたり正気を失ったりする危険性は、たったの30%足らずだ。  本当に特殊能力と呼べるものは、今、俺の左手の中にある。大きなビー玉のような球体のなかに浮かぶ、1本の矢印。「羅針盤」と呼ばれるこいつが、ターゲットの夢の中で消すべき情報のありかを教えてくれる。この能力を持っているのは、日本国内ではまだ俺1人。そういうわけで、俺への依頼窓口となっているエージェントには、政界やら財界やら暴力団やら、ウラの世界からの依頼が絶えないのだ。閉ざし屋が自分の夢に作る「会議室」に一般人を誘導できる能力を持ったエージェントには、閉ざし屋に近しい人物でないとなれない。まだ14歳の妹は、おかげで随分と俗世離れした性格になってしまった。     
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加