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 イメージを集めてみても、人の気配がまったくないだけにろくなものが練れそうになかった。無人の街の、無人のビル。こういうときは、イマジネーションで勝負だ。無機物への変身にはリスクを伴うが、こうなってはえり好みもできない。無人のビルには、無人の工作機械。目の覚めるような黄色のボディをキリンのように伸ばし、俺は巨大なクレーン車になった。ビルの屋上から、イメージを加工した建設用の鉄骨を下ろす。よく、ドラマなんかで工事現場の上から降ってくるアレだ。こいつを入り口に積み上げてしまえば、まずこじ開けられることはないだろう。  だが、3つめの鉄骨を積み上げたときに異変は起こった。巨頭のウサギたちが、無人の工事現場に気づいたのだ。重量ぎりぎりの鉄骨をぶら下げた車体に、無数のウサギたちが群がってくる。頭がでかいせいか、その前歯は鋭かった。少しずつではあるが、鉄でできているはずの俺のボディが削られていくのがわかる。軋むような痛みが全身を走った。だがクレーン車には口がないから、苦痛を叫ぶこともできない。一瞬、ウサギに戻ることも考えたが、もし今やわらかい毛皮のウサギになど戻ろうものなら、この薄気味の悪い獣どもあっという間に食い尽くされてしまうのは目に見えていた。そうこうするうちに、黄色の塗装が音を立ててはがされていく。まずい、夢の中だというのに痛みのあまり意識が怪しくなってきた。     
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