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 返してほしいと、無理やりとはいえ頼まれた手前、無視することはできない。さっさと手渡して、それで終わりにしよう。  そう決めた唯一は、教科書を片手に、教室を出た。早足で廊下を進み、階段を降りる。  そして唯一より少し先のところ、階段の途中に壮慈の背中を見つけて、足を止めた。 「……そ……日戸」  名前を呼びかけて、けれどすぐに苗字で言い直せば、驚いたように壮慈の肩が跳ねた。 「え……」  足を止め、躊躇う様子を見せながら振り返った壮慈の目が、数段上にいる唯一の姿を捉え、嫌そうに歪む。 「教科書、返してほしいって頼まれたから」  明らかな拒絶反応にムッとしながらも、唯一は彼に近付き、教科書を差し出した。  差し出された教科書を、壮慈はじっと見つめる。そんな彼に、内心唯一は、さっさと受け取れ、と毒づいた。そこまで露骨に嫌そうな顔をするのなら、さっと受け取って、さっさと行けばいいのに。 「……いらない」 「……は?」  不意に、短く壮慈が吐き捨てる。  その言葉に、唯一の頬が引き攣った。 「なんだよそれ……って、おい!」  教科書を受け取らず、そのまま先に行こうとする壮慈を見て、思わず唯一は怒鳴る。  教科書を捨てるなんて発想、普通はない。その理由を考えて、唯一の頭に血が上る。  それはまるで――唯一が触ったものなどいらないと、言っているみたいで。
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