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教室でも部活でも、壮慈は唯一を無視する。唯一も壮慈を無視している。だがここまでの露骨な態度に、腹の立たないわけがない。
「っ、ふざけんなよ!」
三年前のこととはいえ、唯一の彼女は盗ったくせに。それなのに、今、唯一が一瞬触れただけのものは、拒否するのか。
苛立ち、唯一は壮慈の肩を掴む。
「放せ!」
途端、壮慈が勢いよく振り向き、唯一の手を振り解こうとした。
まるで自分が汚いものにでもなったかのようで、ますます苛立ちが増した唯一は、意地でも壮慈の肩から手を離そうとしない。
「オレに触んじゃねえよ!」
「うるせえ!」
互いの怒鳴り声が、階段と廊下に反響する。
二人の声を聞いて、近くを歩いていた生徒らが、驚いたような顔で視線を向けてきた。だがすぐに、関わりたくないと早足で去っていく。
「触んなっつってんだろ、この……ッ!」
体を捻るようにして、これ以上ないほどの強い力で、壮慈が唯一の手を振り解く。
さすがに渾身の力には逆らえず、唯一の手が壮慈から離れた。
だが無理な体勢だったせいだろうか。
「っわ……!」
壮慈は階段を踏み外して、バランスを崩した。その体が、斜めに落ちていく。
「そ、壮慈!?」
反射的に唯一は、壮慈へ手を伸ばした。が、伸ばした手は空を切り、決して低くはない高さから、壮慈の体が落ちていく。
その光景をスローモーションで見ていた唯一は、壮慈の落ちていく下に、驚いたような顔をしてこちらを見上げている堀井の姿を見つけて、目を見開いた。
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