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 本来であれば、次の試合に出る選手達が練習をする音と、試合に出ない部員達による掛け声で、テニスコートは賑やかだっただろう。  だが今、コートに集められた部員達の間には、重い空気が流れていた。 「というわけで、おれはこの通り、団体戦に……試合には出られない」  部員達の中心になるような形で前に立っているのは、部長の堀井だ。そんな彼の右手首には包帯が巻かれている。  堀井の言葉に、部員達が騒めく。  その中で唯一は、申し訳なさに唇を噛んだ。  脳裏に浮かぶのは、一時間ほど前のこと。  壮慈と階段で険悪なムードになり、彼が階段から落ちたとき。その下に、騒ぎを聞きつけた堀井がやって来た。堀井は咄嗟に、落ちてきた壮慈を受け止め、支えたのだが――その際誤って、手首を痛めてしまったのだ。 「そんな……部長の最後の試合なのに……」 「勝手に最後にするなよ。お前らが勝ってくれたら最後にならないんだから。幸い深い怪我じゃないから、すぐに治る」  部員の呟きに、そう言って堀井は苦笑する。  しかしその表情は、すぐに険しくなった。 「で、問題は、誰が代わりに試合に出るかだ」  堀井が言った途端、あんなにざわついていたその場が、シンと静かになった。  口を噤んだ彼らが一斉に見るのは、前列に近い位置に立っている壮慈だ。 「誰も組みたがらねえよな……」 「もっと早く動けとか、自分は勝手なことしながら、文句ばっか言うし」 「つか、部長の怪我ってあいつのせいだろ?」  近くに立っていた部員達がそんなことを囁き合っているのが、唯一の耳に届く。
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