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怪我の原因を堀井は言っていない。が、噂の流れる速さは突風のように早く、彼らの間にはもう、堀井の怪我の原因が壮慈らしいということが、伝わってしまっていた。
壮慈だけのせいじゃない。自分も――。
そう唯一は言いかけるが、堀井の「誰かおれの代わりに日戸と組むやつはいないか?」という再度の呼びかけに邪魔されて、タイミングを逃してしまった。
堀井が呼びかけても、誰も名乗りを上げない。気まずい沈黙だけが流れ、困ったように堀井が頭を掻く。
壮慈は、何も言わない。
唯一の位置からは壮慈の背中しか見えなかったが、彼は俯くこともせず、ただじっと、前を見据えて立っていた。
「お前、試合出たいんだろ。チャンスじゃん」
「バカ言うな。あいつと組むなんてやだよ」
誰か一人が話し始めれば、それは他の者にも伝染していき、あちらこちらで、同じような会話が始まる。どれもが、壮慈とペアを組みたくない、というもので、唯一はその会話が壮慈に聞こえていないか内心ハラハラした。
こんな会話、聞いていて決して、気分のいいものではない。
「……ここまで誰も何も言わないなら、別のペアを出した方がいいんじゃないですか?」
ふと、誰かがそう進言した。
それを聞いて、今まで何の反応もしていなかった壮慈が振り返る。息を呑み、そんなの嫌だと言いたげな、けれど雰囲気的にそんなことを言えるはずがないと分かっている、傷付いたような表情で。
それに、唯一はドキリとする。
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