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 学生にとっての大きなイベントといえば、入学式、卒業式だろう。  出会いと別れ。  期待とちょっとした不安。  中学校の卒業式も、高校の入学式も、その想いでドキドキした。  ――そして今、津々賀唯一(つつがゆいち)は、同じくらい緊張している。  目の前にある、今は閉められている、見慣れない教室の扉。  その向こうから聞こえてくる騒めきに、ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。  卒業式も入学式も経験してきた唯一だが、転校は、高校二年生になって初体験だった。  しかも、あと一ヶ月で夏休みを迎えるという、転校にはあまりにも中途半端な時期なのも、唯一の緊張を高めている原因だった。  知り合いは一人もいない。同学校出身者の多かった前の高校と違って、一から、友達作りをしなければいけない。  高校で出会った友達は一生ものだと、どこかで聞いたことがある。できればそんな友達を作りたい。あわよくば親友と呼べるような。  あのときみたいに、ならないような――。 「今日は転入生を紹介する。入って来い」  わーっという歓声に近い声と、担任教師のそんな声が聞こえてきて、唯一は我に返った。  耳辺りで切り揃えた髪を手櫛で手早く整えた唯一は、緊張して乾いた唇を舐めたあと、扉に手を掛け、勢いよくそこを開いた。  一歩足を踏み入れれば、見知らぬ男女の、無雑作なたくさんの視線が突き刺さってくる。  だが、グレーのズボンやスカートに白のカッターシャツ、男は青いネクタイ、女は赤いリボンという制服(ブレザー)のデザインや、教室の雰囲気が、まだ前の学校のそれらと似ていて、唯一は少しだけ安心した。  すべて知らないものよりは、少しは似ているもののある方が、緊張は多少和らぐ。
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