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「へえ。そんなに?」
「はい。ただ自分勝手なプレイする傾向があって、俺以外組みたがるやついなくて」
「そういう相手と普通に組めてやっていけるってことは、津々賀君もすごいんだと思うよ。おれも今組んでる相手がそんな感じでね。……あ、今言ったこと、本人には秘密ね!?」
笑いながら言っていた堀井は、不意にハッとしたように辺りを見回す。今組んでいるという相手に聞かれやしないかと焦ったらしい。
それに「分かりました」と、唯一は笑った。
「けど、それなのにどうしてシングルスに?」
話の流れから考えれば、その質問が出てくるのは当然のことだった。
そのため唯一は、当時のことを思い出してモヤモヤしつつも、困ったように笑い、言う。
「……俺が、悪いんです。そのとき俺、人生初の彼女ができて浮かれてて。そのせいで練習が疎かになってたみたいで……」
なんでもない過去の話だと自分に言い聞かせながら、唯一は話す。
だがどうしても、無意識に当時のことを思い出してしまい、ズキリと胸が痛んだ。
「で、そのときの試合で負けて……ペアだったやつに『お前のせいで負けたんだ。オレはもうダブルスはこりごりだ』って、言われて」
親友だった彼とは、それきりだ。
唯一の話に、堀井は戸惑ったように眉尻を下げる。聞いてはいけないことを聞いてしまったと言いたげな、困ったような表情だった。
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