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「コートの横の建物が部室兼更衣室だから。本当は今日から練習に参加してもらってもいいくらいなんだけど……ごめん、あんまりできないかも。試合、もうすぐで。しかもその試合でおれら……三年生の引退が決まるから、結構みんな必死でね」
「あ、構いません。俺も入部届けまだですし。雰囲気とか場所とか知りたかっただけなんで」
「そう? ……あ、おーい、日戸!」
不意に堀井が、壮慈の名前を呼んだ。
それに、唯一は動揺した。どうして今、彼の名前が出てくるのか、分からなかった。
同姓同名かとも思ったが、堀井に呼ばれてコートの向こうからやって来た壮慈の姿を見て、唯一は言葉を失くす。
そしてそれは、壮慈も同じだったらしい。
「なっ、お前……」
堀井と共に立っている唯一を見て、驚愕したように壮慈は、大きく目を見開いていた。
「今日から転入してきた、津々賀君。津々賀君、こっちは日戸。例のおれのペア」
堀井は、躊躇いながらも唯一達の前で足を止めた壮慈を、そう説明する。
「……!?」
その説明に、唯一は絶句するしかない。
だって三年前、彼は言ったのだ。『ダブルスなんてもうこりごりだ』と。そのときにテニス部も辞めていった。だから彼はもう、テニス自体しないと思っていた。それなのに、今でも続けているなんて。しかも堀井とペアまで組んでいるなんて……。
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