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 転入して最初こそ、新鮮味と緊張感で胸がいっぱいだった。  しかし数日も経てば、新鮮味は薄れ、ここでの生活が日常と化してくる。  友人もできて、早くも唯一は、新しい高校生活を楽しんでいた。  ――が、学校生活は、毎日が随時楽しいことばかりではない。 「津々賀って日戸と同じテニス部だったよな。悪いけどこれ、返しといてくれね? 隣のクラスのやつに頼まれたんだけど、俺もこのあと用事あってさ」 「へ?」 「じゃあ頼んだから!」 「えっ、ちょ……!」  部活へ向かおうと鞄を肩に掛けた唯一は、用事を頼むだけ頼んでさっさと教室を出て行ってしまったクラスメイトを、呆然と見送る。  それから、クラスメイトに半ば無理やり渡された教科書を見下ろし、溜め息を吐いた。 「まじかよ……」  放課後になって賑やかな教室の中には、もう壮慈の姿はない。  号令が終わると同時に彼は、鞄を持ってさっさと教室を出て行ってしまったのだ。今週末に試合を控えた今、選手である壮慈は、早く練習したくて仕方がなかったのだろう。  昔からそうだった。試合が近くなればなるほど、彼の練習量は増える。あまりにも練習量が多すぎる際に、試合前に疲れてどうするんだと彼をいさめるのは、ペアだった唯一の役目だった。  中学時代を無意識に思い出していた唯一は、ふと我に返ると、首を左右に振った。  そんな思い出、もうどうでもいい。
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