暗闇の中で、天の光はその行く先を

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「拾ってやろうか」 全てを見透かすような紫の瞳にどろりとした深淵をちらつかせながら、彼はそう言った。 街灯が煌々と光る中でなお、闇に生きる者の目を惹く銀色の月の光は愉快げな彼の漆黒の髪を照らす。 それをただ呆然と見ていた彼女の耳には、最早何の音も素通りするだけで。 それでも確かに聞こえた言葉に、彼女は視線をその瞳だけに向けた。 「私が、欲しい?」 彼女には価値がある。 巨万の富を得る事も、世界を手に入れる事も、彼女にとっては容易いこと。 この世の理さえ思いのままに変えられる。 そう、永遠の命を得ることさえも─── しかし、全ての事象は因果応報でもって代償が支払われる。 それを知った者は彼女を利用していたことを忘れ、手のひらを返し都合よく代償を押し付けた。 そして半端に成った願いの代償は彼女へと降りかかることとなる。 一人の身には収まりきらず、彼女から周囲に撒き散らされる(さま)は災厄はまさしく因果応報。 世の概念から外れた彼女を長きに渡り捕らえ、その力を搾取し続けた罪深き一族は呆気なく滅びた。 そのまま長い時が過ぎる間に、生まれ持った性質ゆえに捕らえられ、感情を持たなかった彼女の心は知らず闇に堕ちていた。 だがふと、最後に自分から望みを叶えてやるのもいいかもしれない、と思った。 闇に在りながら己を示す月のように、彼女はそこに一筋の光を見たから。 彼は勿論そんな事など知り得るはずがなかった。 だが、面白い、と思った。 時を忘れたような彼女と共に在れば何かを得られるのではないかと。 闇に在りながら太陽の光を反射させることでしか光る事が出来ない月のように哀れで、しかし美しい彼女が、闇に生きるためだけに生きてきたような彼の一筋の光になる気がしたから。 そうして彼は彼女を拾い、彼女はその手を取った。 互いに月を見出した二人が歩き出したその真上には、銀の月がただ輝くばかり───
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