1.やけど

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 客と別れてホテルを出ると空はもう真っ暗だった。  家を出たときはまだ少し陽が残っていて空気がぬるかったが、夜になるとまだ肌寒く感じる。 しかし夜風は確実に湿気を含み始めていて、憂鬱な梅雨の季節がすぐ近くまできていることを予感させた。  ケイは自宅マンションに向かって歩みを進めながら、店に終了報告の電話をかけた。  通話口にはモトイが出た。  電話やメールが苦手なケイは、この作業もやっぱり苦手だ。 だから、ケイの扱いに慣れているモトイが電話に出てくれると安心した。 「も 、しもし」 『もしもし、ケイか?』 「はい、」 『もう終わったのか、早かったな』  ケイはスマートフォンを耳にあてたままうなずいた。それから、電話なので声を出さないと相手に通じないと気づき、慌てて、 「はい」  と答えた。  スピーカーの向こう側から、モトイがちょっと笑う気配がした。おそらく声を出さずにうなずいていたことがバレている。  顔に熱がたまるのを感じたケイは、暗くて誰に見られるというわけでもないのに、思わずうつむいた。 『問題なかったか?』  穏やかに問われて、ケイは少し考えた。それから、思い当たることがあって、あ、と声を出す。 「……背中、」 『うん?』  時間をかけて単語と単語をつなぎ合わせる作業をするケイを、モトイはいつも、急かさずに待ってくれる。 「やけど……?」 『え……、』  モトイの声が心配そうなものに変わった。 「熱くて、えっと、なんか、やけど みたいな、感じ、する」
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