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夜中の一時を回った頃、インターホンが鳴った。
布団をかぶって眠っていたケイは、音で目を覚ましたが、半ば寝ぼけたまま玄関を開けた。
「悪い、寝てたよな」
「モトイさん、」
まだかすむ目をこすりながら、ケイはモトイをぼんやりと見上げた。
「ごめんな、夕方の電話ちょっと気になって」
モトイはそう言うと、特に断りもなく靴を脱いで部屋の中へ上がった。
半年前、ケイが店に勤め始めてから、モトイはよくケイの家を訪れている。
生活力のなかったケイに米の炊き方や買い物の仕方を教えたのもモトイだし、ケイが体調を崩したときに面倒を見にくるのもモトイだった。なんならモトイはケイの部屋の合鍵も持っている。
だから、モトイが部屋に入ってくることに違和感も緊張もないし、寝ぼけた隙だらけの状態で彼とふたりきりになることに抵抗はない。
「熱かったのは背中だったよね」
モトイはそう言って、ベッドのある場所まで行くと、ケイを手招きした。
ケイは素直にそれに従って、モトイの手に導かれるままベッドにうつ伏せに寝ころぶ。まだ眠気が残っていたので、横になるとまぶたが閉じそうになった。
寝間着がわりのスウェットパーカーがたくしあげられて、ケイの背中がモトイの眼前にさらされた。続けてズボンもさげられて、臀部が半分くらい空気にふれた。
残っていた眠気が吹き飛んで、ケイは慌てて身をひねった。
「おしりは、だいじょうぶ、」
「そうなの?」
ケイは中途半端に下ろされたズボンを直しながら、こくこくと首を縦に振った。
「背中もなんともなさそうだね」
モトイが不思議そうに言うので、ケイは自分でも背中を触ってみた。
確かに触った感じは何もないが、たしかにあの瞬間、爛れるような熱さを感じたのは事実だった。
ケイも不思議になって、背中を触ったまま首を右に大きく傾げた。
「何か熱いものあてられたとか、変なことされた?」
「あついもの、」
「タバコとか、ロウソク、とか」
そういうものはなかったなと思って、ケイは横に首を振って答える。
モトイはそれを見ると、少しのあいだ考えるような素振りを見せたあと、ぽん、とケイの頭のうえに手をのせた。
「ケイ、しばらく客とるのやめようか」
「え……?」
ケイは両方の瞳を大きく見開いてモトイを見つめた。それから徐々に青ざめて、
「で、でも、おれ、」
モトイはケイの頭に乗せた手で、そのまま、ケイの頭を優しく撫ぜた。
「部屋のことなら大丈夫だよ。急に追い出したりなんてしないし、家賃もどうにかなるから」
「でも、」
心の奥にある虚からどろどろと不安が溢れてくるのがわかる。
ケイには春を売ることの他にできることがない。
頼れる人もいなかった。ここでモトイに見捨てられたら、もう、生きていく方法がわからない。
「ケイ、大丈夫だから。少し休もう」
モトイは慰めるように言って、小さく震えていたケイの肩をそっと抱きしめた。
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