Short story. 捨てられた子犬みたいに

1/7
前へ
/93ページ
次へ

Short story. 捨てられた子犬みたいに

 モトイがケイを見つけたのは偶然ではない。  胡蝶蘭のホストが、常連客から野良で男の子を買ったという話を聞いたことを、モトイに報告していたのだった。  ケイは夜の喧騒の中、ネオンも届かない暗い場所で座り込んでいて、モトイが声をかけると何も聞かずに黙ってついてきた。 第一印象は、無口で無防備で危なっかしい子ども。 そしてモトイのような面倒見の良いタイプには、庇護欲をそそられる雰囲気があった。  もう秋は終わりかけていた。 日中は晴れていたが、陽が落ちると肌寒く、とりあえずモトイは、ケイを連れてファミレスに入った。  連れられて来た場所が予想と違っていたのか、ケイは落ち着かなさそうに終始うつむいていた。 「腹空いてるなら、好きなもの頼んでいいよ、」  と、メニューを差し出せば、驚いたように顔を上げる。 伸び放題の前髪に隠れて表情はよく見えなかった。  しかし結局、ケイは自分から食べたいものをリクエストしなかったので、モトイはドリンクバーと、適当につまめそうなものを数品注文した。  何が飲みたいのかも言わないので、オレンジジュースを注いで持っていってやると、ようやく少しだけ口をつけた。 「名前は?」  モトイの質問に、すぐに答えは返ってこない。 不審がられているのかもしれない、と、モトイはケイに名刺を渡した。 もっとも、胡蝶蘭の名刺を渡したところで、不審が拭えるとも思えない。 「何してたの?」  質問を変えてみる。  やはり答えは返ってこなかった。 「おれみたいのに、声かけられるの待ってた?」  その問いかけには、僅かに反応があったが、ますます頑なに俯いてしまった。 「んー、どうしようかな。帰る家はある?」  うつむいたまま、ケイはゆるゆると左右に首をふった。 どういう意味なのか、はっきりとはわからなかったが、状況から総合的に考えて、頼れるところがない、ということなのだろうと解釈した。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加