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Short story. 捨てられた子犬みたいに
モトイがケイを見つけたのは偶然ではない。
胡蝶蘭のホストが、常連客から野良で男の子を買ったという話を聞いたことを、モトイに報告していたのだった。
ケイは夜の喧騒の中、ネオンも届かない暗い場所で座り込んでいて、モトイが声をかけると何も聞かずに黙ってついてきた。
第一印象は、無口で無防備で危なっかしい子ども。
そしてモトイのような面倒見の良いタイプには、庇護欲をそそられる雰囲気があった。
もう秋は終わりかけていた。
日中は晴れていたが、陽が落ちると肌寒く、とりあえずモトイは、ケイを連れてファミレスに入った。
連れられて来た場所が予想と違っていたのか、ケイは落ち着かなさそうに終始うつむいていた。
「腹空いてるなら、好きなもの頼んでいいよ、」
と、メニューを差し出せば、驚いたように顔を上げる。
伸び放題の前髪に隠れて表情はよく見えなかった。
しかし結局、ケイは自分から食べたいものをリクエストしなかったので、モトイはドリンクバーと、適当につまめそうなものを数品注文した。
何が飲みたいのかも言わないので、オレンジジュースを注いで持っていってやると、ようやく少しだけ口をつけた。
「名前は?」
モトイの質問に、すぐに答えは返ってこない。
不審がられているのかもしれない、と、モトイはケイに名刺を渡した。
もっとも、胡蝶蘭の名刺を渡したところで、不審が拭えるとも思えない。
「何してたの?」
質問を変えてみる。
やはり答えは返ってこなかった。
「おれみたいのに、声かけられるの待ってた?」
その問いかけには、僅かに反応があったが、ますます頑なに俯いてしまった。
「んー、どうしようかな。帰る家はある?」
うつむいたまま、ケイはゆるゆると左右に首をふった。
どういう意味なのか、はっきりとはわからなかったが、状況から総合的に考えて、頼れるところがない、ということなのだろうと解釈した。
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