137人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、胡蝶蘭の産業医的な役割を請け負っている医者のところへ、ケイを連れて行った。
最初、ケイはおとなしくモトイのあとを着いて来ていたのだが、病院の入り口まで来ると、なぜか逃げ出そうとした。
モトイがケイの細い腕をつかまえて無理やり院内へ入ると、諦めたのか、おとなしくなったが、今度は終始緊張に身を固くしている。
「怖いことはされないから大丈夫だよ」
頭を撫ぜてみると、警戒心が強まったのが空気に伝わってきた。
ケイからは状況の説明はできそうになかったので、診察室にはモトイも一緒に入って医者に経緯を話した。
ひと通り検査をすることになり、モトイはケイを看護師に任せ、待っている間に鞄からPCを取り出して仕事のメールの確認をした。
胡蝶蘭の予約はメールでも電話でも可能だが、ほとんどはメールで入る。
今は予約入力と電話受付を行うスタッフをひとり雇っているので、モトイのところに届くメールは、誰をつければ良いか判断ができないとか、客からのクレームとか、ホストからのクレームとか、取引業者からの連絡とか、店長からの急な指示など多岐にわたった。
検査が終わると、ケイはぐったりとしてしまっていた。
慣れないことで疲れてしまったのかもしれない。
「結果は三日後には出るけど、店に送る?」
先生に確認されて、モトイは、「そうしてください」と答えた。
「詳しい状態は数値見ないとわからないけど、軽い栄養失調かもしれないね。摂食障害の可能性とかはなさそう?」
「それは、たぶん、ないと思うんですけど、」
「だとしたらそれはそれで問題。栄養あるもの食べさせてあげて」
モトイは胸にしくりとした鈍い痛みを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!