Short story. 捨てられた子犬みたいに

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 翌日、胡蝶蘭の産業医的な役割を請け負っている医者のところへ、ケイを連れて行った。  最初、ケイはおとなしくモトイのあとを着いて来ていたのだが、病院の入り口まで来ると、なぜか逃げ出そうとした。 モトイがケイの細い腕をつかまえて無理やり院内へ入ると、諦めたのか、おとなしくなったが、今度は終始緊張に身を固くしている。 「怖いことはされないから大丈夫だよ」  頭を撫ぜてみると、警戒心が強まったのが空気に伝わってきた。  ケイからは状況の説明はできそうになかったので、診察室にはモトイも一緒に入って医者に経緯を話した。 ひと通り検査をすることになり、モトイはケイを看護師に任せ、待っている間に鞄からPCを取り出して仕事のメールの確認をした。  胡蝶蘭の予約はメールでも電話でも可能だが、ほとんどはメールで入る。 今は予約入力と電話受付を行うスタッフをひとり雇っているので、モトイのところに届くメールは、誰をつければ良いか判断ができないとか、客からのクレームとか、ホストからのクレームとか、取引業者からの連絡とか、店長からの急な指示など多岐にわたった。  検査が終わると、ケイはぐったりとしてしまっていた。 慣れないことで疲れてしまったのかもしれない。 「結果は三日後には出るけど、店に送る?」  先生に確認されて、モトイは、「そうしてください」と答えた。 「詳しい状態は数値見ないとわからないけど、軽い栄養失調かもしれないね。摂食障害の可能性とかはなさそう?」 「それは、たぶん、ないと思うんですけど、」 「だとしたらそれはそれで問題。栄養あるもの食べさせてあげて」  モトイは胸にしくりとした鈍い痛みを感じた。
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