Short story. 捨てられた子犬みたいに

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 ***  ケイ本人の口からは、ほとんど何も聞き出すことはできなかった。 結局モトイは、店長の指示通り、プロを雇ってケイの素性を調べた。  本名は、市野瀬(いちのせ)佳透(けいと)。年齢は十六歳。 生まれてすぐに児童養護施設に預けられ、今年の春に高校へ進学したが、同校の不良生徒と問題を起こして失踪。 もともと素行の悪い生徒が多く退学者の扱いにも慣れていた学校側は、ケイが登校しなくなったあとしばらくして生徒名簿から除籍(退学)処分とした。 「十六……、」  事務所にある座り心地の良い三人掛けのソファーに深く座り、PCを開いたモトイは、メールで送られてきた調査報告書のデータを見て、思わず、まじか、と呟いた。  病院へ行った翌日、強引に美容室へ連れて行き、髪を切ってみたらずいぶん幼くて可愛い顔をしていた。 ショタコンの客に受けそうだな、などという考えが過ぎって、モトイは自分のその思考にちょっとうんざりしていたのだが、本当の子どもを平気でショタコンの客の前に差し出せるほど、倫理観が破綻しているわけではない。 「店で雇うのは無理か……」  背もたれに頭をあずけて天井を見上げる。 どうすっかなぁ、と独りごちてみても、答えは返ってこなかった。  この数日ケイの様子を見ていたモトイは、ケイは他人とうまく会話ができないのだということに気づいていた。 他人とのコミュニケーションがスムーズに取れないというのは、色々な場面で障害になっていただろうと想像できる。 口数が少ないせいで、子どもの頃から、誰にも気づいてもらえなかったのだろうか。  モトイは深いため息をついてから、調査報告書のメールを胡蝶蘭の店長へ転送した。
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