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翌朝
そこで目が覚めた。
汗をかいている。
夫は?
急いで階下に降りるも、夫がいない。
どこに行ったの?
まさか昨日のは夢ではなかったの?
鼓動が速くなる。
「あなた!どこ?!」
珍しく大きな声を出した。
「わ、おはよう!どした?」
すぐにキッチンから返事があった。
「い、いたの?」
「いるよ!」
笑いながら夫は続けた。
「今日はおれが朝ごはん作ったから食べてな。
それから、出かける準備してみんなで海でもいくか!」
昨日までとはうってかわり、はつらつとした顔をしている。
心なしか、顔色も昨日までとは別人のよう。
ほっと胸をなでおろし、ごめんね、大きな声を出してと軽く微笑む。
その日は一日中、見違えるほどの家族サービスをしてくれた。
子どもの面倒を見ていてくれたおかげで家事も捗り、気持ちよくおでかけもできた。
いつになく子どもたちをだっこしているな思ったら、暑いと嫌がっていた肩車をしてあげていた。
いつもなら怒るであろう上の子のパンチも、今日はノリノリで受けていた。
初めて見るような晴れやかな表情に少し戸惑いつつ、家路についた。
「今日はおれが男の手料理をご馳走してやるよ」と珍しく胸を張ったので、こちらも頭を下げる仕草をみせて「ははぁ、よろしくお願いします」
とノってみせた。
こんなに笑いあったことが今まであったかしら、と少し幸せな気持ちになった。
そういえば、付き合っていた頃からこの人は無口で無表情であることが多かった。
それをクールでかっこいいと思っていたのだが…
背筋がぞくりとする。
昨日までの夫と今日の夫…
あのホラーめいた夢が頭をよぎる。
不意に夫の笑い声が耳に入る
初めて聞く、夫の高らかな笑い声…
トンネルの向こうから聞こえてきたのとそっくりな笑い声…
ー違うー
疑問が確信に変わり、恐怖が心を覆い尽くす。
夫を見ることができない。
ねぇ、あなたは、誰…
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