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つい先日まで、少し離れた場所に別の路上ミュージシャンがいた。
しかし、彼はいつの間にか姿を見せなくなっていた。
人づてに話を聞けば、スカウトのような人物から名刺をもらっていたという。
そう、実力のある人間は、すぐに華やかな世界へと旅立っていく。
それなのに、自分は大勢のファンを抱えているにも関わらず、どこからも声がかからない。
結局、自分にはここから出るだけの力が無いのだ。
この場所でそこそこのファンを手に入れ、ワイワイやりながらギターをかき鳴らす。
そんな日々もいいじゃないかと考えたこともあった。
しかし、路上ライブを終えて帰路に就くときに感じるのは、圧倒的な喪失感、疎外感、孤独感。
星の見えない夜に輝く月のように、誰もいない場所でただ輝きを誇示し続ける。
そんな滑稽な道化師に成り下がっている状況を、受け入れてしまっている自分が悲しかった。
きっと、自分が思い描いていたものは〝夢〟では無かったのだ。
それはもっと身勝手で、もっと愚かで、限りなく純粋なもの。
口にするだけで満たされてしまう甘い甘い砂糖菓子に酔いしれ、空の器を覗き込んでいる自分に気付いてしまった今、その場所に留まる理由など一つも無かった。
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