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喧騒を詰め込んで運ぶような電車から一歩抜け出せば、そこはひたすらに静まり返った世界。
彼が住むのは人の少ない、東京都の外れ。
今までは不安と苛立ちを纏っていた静謐も、今は落ち着いて物事を考えるにふさわしい空気なのだと思うことができる。
やはり自分は、ただ解放されるのが怖かっただけなのだ。
自由という砂漠の中に踏み出すことを恐れていただけなのだ。
闇の中に、軽い足音が響く。
思わずタップダンスの真似事でも始めてしまいそうな、軽やかなステップ。
その間隙を縫うように、重い足音が響く。
大石の背後、一定の距離を保って。
最初は、偶然同じ方向に進んでいるのだと思った。
しかし、あまりにも彼の動きをなぞり過ぎているのだ。
彼が止まれば、背後の足音も止まる。
彼が早足になれば、背後の足音もそれに倣う。
――後をつけられている?
大石の背筋に冷たいものが走る。
しかし、自分は女子供ではない。
何者かが自分を付け回しているのなら、問い質すことができる強さを持っている。
大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
そして、決意を固めるとできるだけ勢いよく振り返り、大きな声で叫んだ。
「誰だっ!」
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