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早朝、眠る彼の耳で流れ続けるラジオは、ニュース番組へと変わっていた。
朝の陽射しがまぶたをくすぐるも、大石は起きる気配が無い。
もし、この瞬間に大石が目覚めていたら、未来は変わったのかも知れない。
ラジオが伝えるメッセージを彼が聞き取っていれば、そしてすぐに引き返していれば、惨劇は起こらなかったのかも知れない。
いや、もしここで彼が最善の行動を取ったとしても、待ち受ける運命は変わらなかっただろう。
せいぜい、少し先送りになるだけの話だ。
彼を取り巻く怨嗟は、すでに大きくとぐろを巻いて、その牙をむき出しにしていたのだから。
――ラジオが伝える。
――あまりに、信じられないニュースを。
『本日未明、東京都A区のアパートから出火し、全焼しました。焼け跡から、このアパートのオーナーである大矢好美さんのものとみられる遺体が発見されました。警察では放火の疑いもあるとみて……』
ラジオは、伝える。
――大石は、気付かない。
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