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神谷が復唱すると同時に長谷川が声をかける。
「離陸します。もう一度、シートベルトの確認をお願いします」
浩二が再び度頷く。
長谷川がスロットレバーに少し前に動かす。
安曇重工製エンジンのキーンという音が高まる。
「エンジンパラメータ、ステーブルです」神谷の確認が聞こえる。
「チェック」長谷川が答え、スロットルレバーの横にあるTOGAボタンを押す。
スルスルとスロットルレバーが前進し、エンジンが離陸出力に向け鼓動を高める。
同時に背中にGを感じ、JEJは素晴らしい力で加速を開始した。
「いい音だ」浩二は自社製エンジンの力強さに感動しながら呟いた。風音が少しずつ高まる。「80ノット」「チェック」二人のパイロットの息もぴったりのようだ。
「V1」「VR」神谷のコールと共に長谷川が左手のサイドステックをゆっくり引く。
JEJはピッチモーメントを得て空を見上げる。
それまで聞こえていたタイヤのノイズが消えた。
「ポジティブクライムです」初めてJEJは地面を離れた。
浩二は大きな拍手をした。
その時だった。
「なんだ、これは!?」長谷川が声を上げる。
よく見ると長谷川はステックを前へ押している。しかし機体のピッチモーメントは変わらず機首上げに動いている。PFD(一次飛行情報画面)を見ると既にピッチ角は45度を超えてさらに機首上げが止まらない。
後ろから香川の声がする。
「ピッチトリムが上向き限界に張り付いてます!」
長谷川が叫ぶ
「このままだと失速するぞ!! マックスパワー!!」
長谷川がスロットルを更に前に押し込んだ。エンジンの鼓動が高まる。
しかし、速度の低下は止まらない。
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