第1章 プロローグ 綾の絶望

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唐突に目が覚めた。 周りを見渡そうとしたけど、首が動かない。 あれ? 手も足も動かない。身体の感覚もない。どうなって・・ 右奥から誰かが歩いてくる。女の人だ。 「ありがとう、綾さん。あなたの身体を貰って、やっと今日、病室を出ることができたわ」 私の前に立っている人は私にとても似ている。でも、20歳半ばの女性だ。 「こういう時の為に父は “あなた達” を造ったの。父は、あなたの意識を早く消しなさいと言ったけど、私はあなたにお礼が言いたくて・・ 今日まで待ってもらった」 「えっ、どういうことですか?」 やっと口が動いたが声は出ない。 「身体がないから声は出せないわよ。あなたの意識があるのは、人工心肺装置から脳に血液が送られているからよ。今日までは眠っていてもらったけど、お礼を言う為に覚醒してもらった・・」 身体が無い? 人工心肺? どう言う事・・?  確かに首より下がまったく動かない、感覚も無い・・。 どうなって・・。 「私の身体は癌に侵されて使えなくなってしまった。だからあなたの身体を貰ったの。この首の傷、見えるでしょう。首から下はあなたの身体よ。そして、今のあなたは・・」 その女性が横から何かを私の前にスライドさせた。 前に人の顔が見える。首に太いチューブが繋がれていて、赤い液体が流れている。 瞬きしている。「生きている生首?」 そしてその顔は・・ 鏡に写った「わたし・・」 あまりの衝撃だった。 でも意外に冷静だった。 既に心臓が無い私は、興奮して心拍が早くなったり血圧が高くなったり出来ないからかもしれない・・。 「綾さん、今、少しずつ人工心肺から送り出す血液を減らしているの。多分、眠る様に意識が無くなると思うわ。悪く思わないでね。だって、あなたは”この為”に生まれて来たのだから。ありがとう。さようなら」 私の意識は混濁して消えて言った。
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