第12章 綾の語る、安曇忠明の過去

5/8
前へ
/65ページ
次へ
1993年 京子に膵臓癌が発見された。他の臓器への転移もみられた。 まだ、回復の余地はあったが、多くの臓器を切り取ることで、今後の生活にも支障がでる見込みだった。 忠明の考えは明白だった。 「綾を使おう」 1976年に敦子のクローンとして生を受けた綾は十七歳になっていた。 俊明の身体の移植は実現していないが、京子に綾の体を移植するのは私の執刀でできる。 直ぐに手を回し、綾を拘束した。 京子は最後まで嫌がった。 「そんな他人に助けてもらうなら死んだ方がいいわ!」 でも忠明の考えは変わらなかった。全身麻酔で眠る直前に京子は言った。 「私の身代りになる人を殺さないで・・お願・・」 忠明は一瞬、躊躇したが二人の執刀に入った。 執刀から二週間が経ち、京子は立ち上がれるようになった。 京子の願いを受け、綾の頭部には血液を流し、生かしておいた。 しかし、意識を持たせる必要は無いと考え意識を消そうとした所、京子が 「私が会うまで意識を残しておいて」と言った。 京子を綾が保存されている部屋に連れて行った。ここには京子の古い身体も保存してある。 忠明は京子を残してその部屋を出た。中から京子の声が聞こえた。 「こういう時の為に、父はあなた達を造ったの。父は、あなたの意識を早く消しなさいと言ったけど、私はあなたにお礼が言いたくて今日まで・・・・」 しばらくして、京子が部屋から出て来た。 そして、忠明の胸で泣きじゃくった。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加