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カフェテリアに安曇忠明が秘書を連れて入ってきた。
秘書の原口は三〇代前半だが、目を見張る様な美人だ。
「二人ともここに居たか、探していたぞ」
この老人は七二歳とは思えない若々しい体躯をしている。
「実はお願いがあって探していたのだ。私を初飛行のフライトに乗せてくれないか?」
浩二と茂雄は目を見合わせた。
「会長、初飛行は万全の体制をとっているとは言え、リスクはゼロではありません。その様な試験に会長を同乗させる訳には参りません」
浩二が諭すように忠明に言った。
「私は、いつも重工開発の最前線に居た。今回も同じだ。自分の会社が開発した機体を信頼出来なくてどうする? 」
浩二は頷きながら答える。
「会長の想いは技術者として理解出来ます。ただし今回は開発の責任者として承認出来ません。どうかご自重頂けます様にお願いします」
頷きながら忠明は少し考えて続けた。
「分かった。それでは、こうしよう。君は技術者として初飛行に同乗したいという私の想いを理解できると言った。それでは君達が私の代わりに同乗して来てくれるか? 若しくは私が乗るかだ・・。 さて、どうする?」
浩二と茂雄は再び目を見合わせた。少し考えて浩二が口を開いた。
「分かりました。実は私も小山内君も初飛行に同乗したいとは思っていましたが、自重をしておりました。会長に自重をして頂く代わりに二人で初飛行に同乗して参ります。それで宜しいですか?」
安曇は口元に笑みを浮かべた。
「了解した。後で初飛行の状況を報告してくれ。ありがとう」
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