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 8月の東京。いつものように夏用のキチッとしたスーツに身を包み、カバンを手に下げて道を歩く。アスファルト上の陽炎はゆらりと揺れ、朝早くから蝉が絶えず泣いている。上京してからこんな生活を送っていたが、今年の夏は特に辛い。これも地球温暖化のせいなのだろうか。 僕はこの人口密度と温度で流れ出た汗をぬぐいながら、ぼんやりとそんなことを思うのであった。  僕は東京の何の変哲もない会社に勤めており、ダメダメでも優秀でもない平凡な社会人である。  東京に来る前はのどかな田舎で生活をし、兄と共に畑仕事を手伝いながら祖父母の介護も両親と行っていた。やがて兄も結婚して故郷を離れた。僕は残って以前の生活を変わらず送っていたが、ある日突然会社で働いてみたいという願いが生まれ、僕が今を生きる東京にやってきたのだ。  「あぁ…あづい…マジでなんなんだよこの暑さ」  つい不満が口から漏れ出てしまう暑さだ。きっと今日は熱中症で運ばれる人が多いだろう。病院も救急車も大変だ、勿論熱中症になってしまった人も。 家から距離のそんなにない会社も、この暑さだととても遠く感じてしまう。 重い脚を動かして十五分程。やっとのこと会社が見え、僕は砂漠でオアシスを見つけたような気持ちで会社へ足を早めた。  会社に入るとエアコンが効いて、汗をかいて濡れている肌は寒さを感じる。けれど、これくらいの暑さには丁度いい温度だった。僕はこの心地よさの中一息つき、僕の所属している部に向かおうとエレベーターに乗り込んだ。 エレベーターの中は会社員でいっぱいで、人口密度でまた汗が額を流れる。気温の差が激しくて風邪を引いてしまいそうだ。
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