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ところで、チェリィがお城でリッチな思いをしている同時刻のことでした。
「くそー、あの引ったくりどこに行きやがった」
立派な剣を持った金髪の少年が薄暗い路地裏で嘆いておりました。
彼はつい昨日この国にきたばかりだというのにお財布を盗まれてしまい、無一文生活の真っ最中だったのです。
今までなんの為にせっせと旅費をやりくりしてここまできたのか。
あの迷惑な引ったくりを捜してあてもなくさまよってみたものの、手掛かりは当然のことながらゼロ。
哀れ彼のお財布は永遠に戻ってくることはないでしょう。
よろよろと壁に手をついて少年はガックリとうなだれました。
「くっ、この世に闇がある限り、俺は必ずよみがえってみせる」
心の傷があまりにも大きかったのか、いきなりわけのわからない独り言まで言い出しました。
とは言え、捨てる神あれば拾う神あり。
お金がなくて困っている彼に海のように広い心で優しくしてくれたのは、偶然出会った親切なパン屋のおばちゃんだったのです。
おばちゃんはお腹を空かせた少年に残り物のパンをあげ、更に物置小屋での寝泊りをさせてくれたのです。
もしもおばちゃんと出会えなかったら、今頃泊まる宿もなく腹ペコ状態でゴミ箱のハンバーガーをあさっていたことでしょう。
「ふ、ふん、まぁいいさ。人生にはこれくらいのトラブルがないと面白みがないぜ」
おばちゃんのおかげで若干メンタルが回復したのか、まだ若いのに少年は頑張って強がります。
いえ、むしろ若いからこそこんな強がりができるのでしょう。
きっと明るいであろう未来を信じ、彼は突然のトラブルにも負けず強く生きていこうと決意しました。
「頑張れ俺。エイエイオー、お?」
頑張る自分を応援する為に無意味なダサい掛け声を付けている途中、ふと少年はあることに気付きました。
通路のちょっと奥まったところにあるゴミ箱の裏側で、なにかがちっちゃく動いているように見えたのです。
野良猫でもいるのかと思いましたが、それにしては大きいような気がします。
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