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時間はあっという間に飛んでその日の夜のこと。
ハートロウズ城の客室にあるふかふかのベッドの中でチェリィはふと目を覚ましました。
お城の人達はみんな優しくて、目に映るものは珍しいものばかり。興奮気味だったので晩御飯の味はよく覚えていませんが美味しかったような気がします。
今日の出来事に満足しながら眠りに付いたはずですが、不意に感じた肌寒さによって夢の世界から現実へ戻ってきてしまったのです。
「んー」
ベッドの中でごろごろしながらチェリィは肩にシーツを掛けなおしますが、寝る前よりも空気がちょっと涼しいことに気付いて身体を起き上がらせました。
どうやら窓が開いて風が入ってきているようです。
「お母さん、窓ぉ」
呼び掛けましたが、よく見ると隣のベッドはからっぽでした。
母は開いた窓の前に立っていて、暗い夜空をじっと見上げていました。
チェリィには母の肩が震えているように見えました。寒いのかと思いましたが、すぐにそうではないと気付きました。
母は静かに肩を震わせて泣いていたのです。
「お、お母さん」
ベッドから飛び起きたチェリィは慌てて母の元へ駆け寄りました。
振り向いた母の瞳に雫がきらめいているのを見つけ、チェリィは更に慌てます。
「お母さんどうしたの? どこか痛いの?」
母はさっと涙をぬぐいました。
「大丈夫。なんでもないのよ」
「嘘! だって今確かに」
「なんでもないの」
それ以上なにかを言われるのを遮るように、母はチェリィをぎゅっと抱きしめました。
けれど背中に優しく回された腕はやっぱり震えています。
「一体どうしたのよぉ?」
いつもと違う母の様子に動揺して、チェリィも泣きそうになりました。
「ちょっとね、昔のことを思い出していたの」
母は囁くように言いました。
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