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抱きしめられている為に表情は見えませんでしたが、きっと悲しそうな顔をしているのだとチェリィは察します。
「昔ね、お母さんは許されないことをしてしまったのよ」
「え?」
「とても、とても大切な人達を傷つけてしまった。どう頑張っても、お母さんのした罪は消せないの」
「それってどういうことなの?」
それ以上なにも言ってくれない母にチェリィは不安になりました。
その言葉の意味が分からず、もやもやとした嫌な気持ちが広がってゆくばかり。
チェリィはお母さんのことならなんでも知っているつもりでいました。
なのに、大好きなお母さんがどうしてこんな風に悲しそうにしているのかがわかりません。
「お母さん、泣かないで」
小さな両手で母の服をつかみながらチェリィは言いました。
「あたしがずっとそばにいるんだから、だからそんな悲しそうにしないで」
瞳をうるうるさせて言うと、母は少しだけ身体をはなしてチェリィの顔を覗き込みました。
そしてとうとうべそをかき出すチェリィに、やっと微笑んでくれました。
「ありがとう。チェリィはいい子ね」
母の目にもう涙は浮かんでいません。
チェリィの顔をハンカチでふいて鼻もかんでくれました。いつものように頭を撫でてくれました。
「さ、もう遅いから寝ましょう」
「うん」
やっとのことで泣き止んだチェリィは母に言われるままにベッドに潜り込みますが、むくりと起き上がって言いました。
「今日はお母さんと一緒に寝る! いいでしょ?」
「ええ、いいわよ」
チェリィはお母さんと一緒にベッドに横になりました。
抱きしめてくれた手がとても暖かくて心地よくて、チェリィは再び夢の中へ入ってゆくのでした。
けれど意識が遠のいていく途中、小さく囁く声が聞こえました。
「ごめんなさい」
チェリィはなんだかとても眠たくてその言葉に反応することができません。
もう一度母の声が聞こえてきました。
「ごめんね」
お母さん、一体なにに対して謝っているの?
誰に謝っているの?
その疑問を言葉として出すことができないまま、チェリィは眠りの世界へ入ってゆきました。
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