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1 みらくる村
その女の子を乗せた馬車はある小さな村の前で止まりました。
馬車の中からまず若い女の人がおりて、それに続いて女の子がおりました。二人とも赤い綺麗な髪をしていて、一目で親子だとわかります。
「さぁチェリィ、ここがみらくる村よ」
お母さんが優しい声で言うと、チェリィと呼ばれた女の子は辺りをきょろきょろと見渡しました。
チェリィは肩まで伸ばした髪をお気に入りのリボンで二つにまとめている八歳の女の子です。
「今日からこの村で暮らすのよ。お友達たくさんできるといいわね」
「うん、すごく楽しみ!」
白い歯を見せてチェリィは無邪気に笑いました。
チェリィはこれまで城下町で暮らしていましたが、お母さんの仕事の事情で引越してきたのです。
どんな事情なのかは知りません。親の仕事なんぞよりも初めてのお引越しの方がチェリィにとっては大切でした。
城下町にいた頃は近所の悪ガキ共を散々しばき倒してきましたが、引越し先では心機一転しておしとやかな可愛らしい女の子として生きていこう。そしてボーイフレンドの一人や二人作ってやろうとひそかに目論んでいたのです。
そんな浅はかな考えを見通しているのか、母は一瞬生温かい笑みを浮かべましたが、本当に一瞬のことだったのでチェリィは気付きませんでした。
「こんにちは。ようこそみらくる村へ」
白くて立派なお髭をはやしたおじいさんがやってきました。
お髭はふさふさなのに髪はほんのちょっぴりしかなくて、頭のてっぺんがお日様の光を反射して輝いています。
「ワシはこの村の村長です。そちらは確かエイミーさんと言いましたかの?」
「はい、初めまして。今日からお世話になります」
村長さんに笑顔で返してから、母エイミーはチェリィに言いました。
「さぁチェリィ、村長さんに挨拶なさい」
「こんにちは。チェリィです」
まるでお姫様のようにスカートのすそをつまんでチェリィはお辞儀をしました。完全にませガキのポーズでしたが村長さんは朗らかな笑顔です。
それからお母さんに手を引かれて、村長さんの案内で新しいおうちへ向かいました。
暖かい風が春の匂いを運んできます。
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