第三章

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 帰りは朝とは違い、車内は人が少ない。立っている人はおらず、空席が目立っていた。この時間帯と朝を比較すると、朝の通勤ラッシュの凄まじさがよく分かる。帰りの時間帯に車内にいるのは、電車通学をしている高校生くらいだろう。  僕は席に腰かけ、講義のレジュメやルーズリーフを見ながら電車に乗るのだ。今日の朝もこのように通学出来ると嬉しいのだが、それはめったに叶わない。  大学の最寄り駅から十五分程揺られると自宅の最寄り駅に到着し、そこから徒歩五分でアルバイト先の塾にたどり着ける。  塾に入り、更衣室でロッカーに置いてあるスーツに着替える。Tシャツなどの普段着で授業をするのは、生徒や保護者の信頼性を損ねてしまう可能性がある。そのため、塾講師はかっちりとした服装で授業をするのが好ましい。他塾では、私服に白衣のようなものを羽織るところもあるが、僕的にはスーツの方がいい。ワイシャツに着替えてネクタイを結ぶと、身も心も引き締まる。  生徒の授業は午後六時から始まるが、僕はそれよりも早く業務を始める。授業開始までの間に授業準備だけでなく、生徒たちに頼まれた作業もしているのだ。内容はテスト対策プリントの作成や小論文のテーマを考えることが多く、それなりに時間が必要となる。場合によっては、それらに作文の添削が加わることもある。そのため、少なくとも授業開始時刻の一時間前には、ペンを握るように決めているのだ。     
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