第三章

14/19
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
五  放送部の活動は、ストレッチと筋力トレーニング、発声練習の三つから始まる。これらは、体育の準備体操にあたるものだ。  肩や首を大きく回す、上半身を前後に傾けるといった柔軟体操から始め、次に体幹を鍛えるための腹筋と背筋を十回ずつ行う。最後に、お腹から声を出すためのロングトーンや活舌を磨く発音練習をする。ロングトーンとは、背筋を伸ばし、胸いっぱいに空気を吸い込んでから、口を大きく開けて「アー」と静かに声を出す練習だ。  部員はこれらを三点セットと呼んで、毎回忘れることなくこなしている。  柔軟体操と筋トレは各自で行い、全員が終わるのを待つ。これから発声練習だ。部員は学年順に、部屋の前方で横一列に並んだ。  列を整えると、一番後ろの席の中央に座っている顧問が「さん、はい」と合図をした。部員は一斉に「アー」と発声を始める。声を長く続けるには、背筋を伸ばして姿勢を正し、腹式呼吸で徐々にお腹をへこませる必要がある。私は思いっきり息を鼻から吸い込み、校舎内全体に声を届けるように発声した。  八つの音の集まりが部屋の後方の壁に向かって、まっすぐと進む。時間が経つにつれて、壁にぶつかる音の個数が減っていった。     
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!