第3章

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 お尻の左右を鷲掴みされて、繰り出される激しい揺れが、私から思考を奪う。聡が放つ波に突き上げられるたびに、企ても復讐もどうでもよくなっていく。隙間なく絡みついた男女の快楽にもみくちゃにされながら、私は男の頭を自分の胸にかき寄せた。大きな手が乳房を揉みしだきながら唇の中でまた、ねっとりと先端をこねくりまわされて、津波のように襲ってくる快楽に溺れていく。全身がまあるいひとつの塊になって、溶けてまた硬く閉じて開いてを繰り返し、鋭い先端に向かって這い上がって、その頂きに手を伸ばした。  その時の私は、聡は、自分が誰で、相手が誰なのか、超えてはならない境界線さえも、見えなくなっていて、息をするように唇を吸い、髪を梳くように肌を撫で上げ、枕に頭を鎮めるように肉と肉を押し付け合った。遠い記憶を辿って、いつか重なり合っていた胎児の頃に還ったつもりになって、お互いの内なる世界へと招き入れて、秘密を見せ合い、憎しみを知らない顔をして、微笑み合った。長い睫毛を震わせ、瞳に映る良く似たもう一人の自分を照れくさそうに見つけては、大きな口を開けて泡立つようなキスを繰り返した。  聡と旅した宇宙の果てから戻ると、自分がどんな体験をしてしまったのかと、我に返って、唐突に怖くなった。私の中に解き放たれた聡の欲望が太ももから垂れ落ちるのを感じながら、眠る彼の腕を逃れて這うように部屋を出た。 +++++  高校三年生の夏の日。誕生日が近いある日。青い空と白い入道雲。ベランダの風鈴が涼しげな音を奏でた。
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